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台日の映像業界交流を裏方からつなぐ 通訳・字幕翻訳者の張克柔さん/台湾

2023/12/20 20:13
三宅唱監督(右)と記念撮影の張克柔さん(張克柔さん提供)
三宅唱監督(右)と記念撮影の張克柔さん(張克柔さん提供)

(台北中央社)訪台した日本の芸能人や映画監督の記者会見から日本映画の中国語字幕まで、至る所でその「影」が見られる。それは通訳・映画字幕翻訳者の張克柔さんだ。張さんは裏方から台湾と日本の映像業界に架け橋を築いている。

新型コロナウイルス後、日本の俳優や映画監督の訪台が相次ぐ中、濱口竜介監督や俳優の山下智久さん、上野樹里さんなど数多く記者会見に張さんの姿があった。通訳・翻訳業界に入ってから10年余りになる張さんは、通訳において注意すべき細かな点は場面ごとに異なると話す。芸能会見の場合に気を配っているのはエンターテインメント性とスムーズさだ。「記者会見はショーのようなもの。芸能人、司会者、メディア、通訳者で一緒に作り上げる必要がある」と語る。

一方、一般的な映画の上映後イベントの場合は、超訳ではなく修飾の範囲内で観客がすぐに理解できるような対話に変換する必要がある。日本の声優の通訳をする際は、日本語が分かるファンがその他のイベントよりも多いため、キーワードの訳出に注意を払う。

普段の日本語練習法は「独り言」だと明かす張さん。「普通に会話をしている音量で話すため、ルームメートには電話をしていると思われることもある」と笑う。「友達との約束に遅刻しそう」などさまざまな状況を想定し、会話の相手も性別や年齢など設定を変えて練習しているのだという。

張さんはコロナ前には年間約30本の日本映画の字幕翻訳を手掛けてきた。今年台湾でも公開された宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」も張さんが担当した作品の一つだ。張さんは同作の翻訳の経験を「夢がかなったけれど、プレッシャーがとても大きかった」と形容する。映画会社で作品を初めて見終わった際には体力が全て絞り取られたように疲れ果て、すぐに横になって寝てしまうほどだったという。

同作にはメタファーが数多く含まれているため、翻訳の際にも主観を入れないよう気を付け、物語の時代背景や観客の受容度にも配慮した。張さんは「後継者」という単語の訳出を例に挙げる。当初訳語として、現代ではなじみ深い「接班人」という中国語を使った際、ジブリ側から「作品の時代背景とはそぐわないのではないか」との意見が上がった。張さんも調べたところ、この単語と物語の時代背景は完全には一致しないことが分かった。だが観客にとっての分かりやすさを考慮し、別の可能性も列挙した上でジブリ側と話し合ったところ、「接班人」の訳語を使うことで納得してもらえたという。同作の翻訳の過程では幾度となく自分を覆す必要があり、翻訳には他の作品の約2倍にもなる1カ月を費やしたと明かした。

コロナ後、台日映像産業の交流が再び活発になるに伴い、張さんの日々も忙しくなってきた。記者会見でコミュニケーションの架け橋となった次の日には映画字幕を支える立役者になる―。台湾と日本の間に緊密な結び付きをこっそりと築き上げている。

(王心妤/編集:名切千絵)

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